今月の魚リストへ戻る


2011年5月の魚

ベニテグリ Foetorepus altivelis (Temminck et Schlegel, 1845)(スズキ目ネズッポ科)

 ベニテグリは南日本の太平洋岸から東シナ海,そして南シナ海北部の大陸棚縁辺域に生息するネズッポ科魚類です.日本産のベニテグリ属はベニテグリFoetorepus altivelisアミメノドクサリFoetorepus kamoharai Nakabo, 1983, そしてルソンベニテグリFoetorepus masudai Nakabo, 1987の3種です.ベニテグリ属はその名の通り朱色の体が特徴で,第2背鰭には黄色や桃色,白色など種ごとに異なる模様をもちとても鮮やかです.高知県の御畳瀬漁港ではベニテグリとルソンベニテグリの2種がよく見られ,標本数も豊富です.この2種は第1背鰭と第2背鰭の斑紋などで,容易に区別することができます.同属のアミメノドクサリは,体側後半部の側線から出る短枝が上下へ向くことや第1背鰭に4本の暗色線があることで,他の2種と区別することができます.しかし,アミメノドクサリは,基産地(タイプ標本の産地)の高知県からも他の海域からも追加記録のない稀種です.

 ベニテグリはふだん店頭で見かける魚ではありませんが,皮を1度で剥ぐことができ,身がしっかりしていて食用になります.いろいろと試してみた結果,刺身,塩焼き,天ぷら,とくに干物にすると美味しく頂けます.

 アミメノドクサリの種小名 "kamoharai"は,本研究室の初代教授である蒲原稔治博士に献名されたものです.京都大学の中坊徹次博士は,本研究室に所蔵されていた高知県産(御畳瀬魚市場で採集)の2標本をホロタイプBSKU 7452, 142.3 mm SL,1956年10月5日)とパラタイプ(BSKU 50007, 115.4 mm SL,1965年2月20日) として本種を記載しました.これは蒲原博士が1951年の論文で,御畳瀬魚市場で採集された本種の1標本(ca. 165 mm SL[図からの推定], 220 mm TL)をハワイ諸島から知られる ?Callionymus corallinus Gilbert, 1905 アミメノドクサリ(New Japanese name)として報告していたためです.Nakabo (1983)はKamohara (1951)の標本が本種のホロタイプであるとしましたが,ホロタイプは1956年に採集されたので,蒲原博士が最初に報告した標本は1951年以前に採集された別のものであることは確かです.そうなると,Kamohara (1951)の標本が本研究室の標本コレクションの中にあるのか,行方不明になってしまったのか気になります.BSKU標本台帳の 7452には "Synchiropus calauropomus "と書かれていますが,この種はオーストラリアやニュージーランド周辺に分布する Foetorepus calauropomus (Richardson, 1844)で,日本周辺には分布しません.

参考文献
Kamohara, T. 1951. Notes on some rare fishes from Prov. Tosa, Japan. Rep. Kochi Univ., Nat. Sci., (1): 1-8, pls 2.

Kamohara, T. 1952. Revised descriptions of the offshore bottom-fishes of Prov. Tosa, Shikoku, Japan. Rep. Kochi Univ., Nat. Sci., (3): 1-122.

Nakabo, T. 1983. Revision of  the dragonets (Pisces: Callionymidae) found in the waters of Japan. Publ. Seto Mar. Biol. Lab., 27 (4/6): 193-259.

Nakabo, T. 1987. A new species of the genus Foetorepus (Callionymidae) from southern Japan with a revised key to the Japanese species of the genus. Japan. J. Ichthyol., 33(4): 335–341.

中坊徹次.2000.ネズッポ科.中坊徹次,(編)pp.1125−1138.日本産魚類検索 全種の同定.第2版.東海大学出版会,東京.

標本写真データ
BSKU 94908, 84.8 mm SL, 土佐湾中央部,水深150m,中央水産研究所調査船こたか丸,St.3-2,オッタートロール,2008年5月22日,採集・写真撮影:中山直英.

(廣田愛実・遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University